はじめに:企業の廃棄物管理を取り巻く状況
企業活動に伴って発生する廃棄物の適正処理は、環境保全の観点だけでなく、法令遵守(コンプライアンス)の観点からも極めて重要な課題です。不適切な廃棄物処理は、行政処分や刑事罰の対象となるだけでなく、社会的信用の失墜にもつながります。
近年、廃棄物処理に関する法規制は強化される傾向にあり、企業の責任も拡大しています。本記事では、企業が知っておくべき廃棄物処理法の基本と最新動向、そして確実な法令遵守のためのポイントを解説します。
1. 廃棄物処理法の基本
まず、企業の廃棄物管理の基本となる「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)について理解しましょう。
廃棄物の区分
廃棄物処理法では、廃棄物を以下のように区分しています:
- 一般廃棄物:産業廃棄物以外の廃棄物(主に家庭から排出されるごみ、オフィスから出る紙くずなど)
- 産業廃棄物:事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、法令で定められた20種類(廃プラスチック類、金属くず、汚泥など)
- 特別管理産業廃棄物:産業廃棄物のうち、爆発性、毒性、感染性などの観点から特に処理に注意を要するもの
企業は、自社から排出される廃棄物がどの区分に該当するかを正確に把握し、その区分に応じた適切な処理を行う必要があります。
事業者の責務
廃棄物処理法では、事業者に以下の責務を課しています:
- 自らの責任において適正に処理すること
- 廃棄物の排出抑制、再生利用等に努めること
- 国や地方公共団体の施策に協力すること
特に「自らの責任において適正に処理すること」という点は重要で、実際の処理を委託した場合でも、排出事業者としての責任は免れません。これを「排出事業者責任の原則」と呼びます。
2. 産業廃棄物管理の具体的なポイント
企業が産業廃棄物を適正に管理するための具体的なポイントを解説します。
委託先の選定
産業廃棄物の処理を委託する場合、適正な許可を持つ業者を選定することが基本です。
- 収集運搬業者には「産業廃棄物収集運搬業許可証」、処分業者には「産業廃棄物処分業許可証」の確認が必要
- 許可証の有効期限、取扱品目、許可区域などを確認
- 可能であれば、処理施設の実地確認も推奨
- 優良産廃処理業者認定制度の活用(情報公開や環境配慮の取り組みなど一定の基準を満たした業者)
委託契約
産業廃棄物の処理委託には、書面による委託契約の締結が義務付けられています。
- 委託契約書には法令で定められた事項を記載する必要がある
- 契約書には許可証の写しを添付すること
- 契約の有効期間は最長5年(自動更新条項は無効)
- 特別管理産業廃棄物の場合は専用の委託契約書が必要
マニフェスト管理
産業廃棄物の処理を委託する際には、マニフェスト(産業廃棄物管理票)を使用して、廃棄物の流れを追跡・管理することが義務付けられています。
- 紙マニフェスト:7枚複写の伝票で、排出事業者、収集運搬業者、処分業者間で回付
- 電子マニフェスト:情報処理センター(JWセンター)を介してデータをやり取り
マニフェスト管理の主なポイント:
- 廃棄物の引き渡しと同時にマニフェストを交付すること
- 処理終了後、所定の期間内にマニフェストの写しの回付を受けること
- 回付を受けた写しは5年間保存すること
- 写しが期限内に返送されない場合は、都道府県知事等に30日以内に報告すること
- 毎年6月30日までに、前年度の産業廃棄物の処理状況を都道府県知事等に報告すること(産業廃棄物管理票交付等状況報告書)
近年、電子マニフェストの利用が推奨され、一定規模以上の事業者には義務化されています。電子マニフェストは、記入ミスの防止、報告業務の効率化、データ管理の容易さなどのメリットがあります。
3. 最近の法改正と動向
廃棄物処理法は頻繁に改正されており、企業はその動向を把握しておく必要があります。最近の主な改正と動向を紹介します。
電子マニフェストの義務化
2020年4月から、特別管理産業廃棄物を年間50トン以上排出する事業者には、電子マニフェストの使用が義務付けられました。また、今後もさらに対象範囲が拡大される可能性があります。
罰則の強化
不法投棄や不適正処理に対する罰則は、近年強化されています。法人に対しては3億円以下の罰金が科される場合もあり、役員や従業員個人も5年以下の懲役または1000万円以下の罰金などの刑事罰を受ける可能性があります。
排出事業者責任の強化
処理委託先での不適正処理が発覚した場合、排出事業者にも「注意義務違反」として責任が問われるケースが増えています。単に許可業者に委託すれば良いというわけではなく、定期的な現地確認や処理状況の把握なども求められています。
プラスチック資源循環促進法
2022年4月に施行された「プラスチック資源循環促進法」は、プラスチック廃棄物の排出抑制とリサイクル推進を目的としています。一定規模以上の事業者には、プラスチック使用製品の排出抑制や再資源化等の取組が求められています。
4. 産業廃棄物管理体制の構築
企業が廃棄物管理を確実に行うためには、社内体制の整備が不可欠です。
管理責任者の設置
廃棄物管理の責任者を明確に定め、その責任と権限を社内で周知することが重要です。事業所ごとに管理責任者を置くことも検討すべきです。
社内規程の整備
廃棄物の分別方法、保管ルール、処理委託の手順、マニフェスト管理の方法などを定めた社内規程を整備しましょう。規程は定期的に見直し、法改正に対応させることが必要です。
従業員教育
全従業員に対して、廃棄物の適正処理に関する基本的な教育を実施しましょう。特に、廃棄物を直接扱う部署の担当者には、より詳細な教育が必要です。
内部監査
定期的に社内の廃棄物管理状況を確認する内部監査を実施することで、法令違反や不適切な管理を早期に発見し、是正することができます。
5. 廃棄物管理のデジタル化
近年、廃棄物管理業務のデジタル化が進んでいます。
廃棄物管理システム
廃棄物の発生量集計、マニフェスト管理、報告書作成などを効率化する廃棄物管理システムの導入が進んでいます。これにより、ヒューマンエラーの防止や業務効率化が期待できます。
IoTを活用した管理
廃棄物保管場所に設置したセンサーで重量や保管状況をリアルタイムでモニタリングするシステムや、GPSを活用して廃棄物の運搬状況を追跡するシステムなど、IoT技術を活用した先進的な管理方法も登場しています。
6. 廃棄物管理の先進事例
先進的な企業の廃棄物管理事例を参考に、自社の取り組みを改善しましょう。
ゼロエミッションへの取り組み
一部の製造業では、工場から排出される廃棄物の最終処分量をゼロにする「ゼロエミッション」を達成しています。徹底した分別と再資源化ルートの開拓により、廃棄物の削減と資源の有効活用を両立させています。
廃棄物データの可視化と活用
廃棄物の発生量や処理コストなどのデータを可視化し、社内で共有することで、廃棄物削減の意識向上と具体的な改善につなげている企業もあります。特に、部門別・品目別のデータ分析は、課題の特定と対策立案に役立ちます。
サプライチェーン全体での取り組み
自社だけでなく、取引先も含めたサプライチェーン全体で廃棄物削減に取り組む先進企業も増えています。設計段階から廃棄物発生を抑制する「設計for環境」の考え方や、取引先と協力した包装材の削減・リユースなどの取り組みが広がっています。
まとめ:法令遵守を超えた廃棄物管理へ
企業の廃棄物管理は、法令遵守はもちろん重要ですが、それだけにとどまらず、環境負荷の低減やコスト削減、さらには企業価値の向上につながる戦略的な取り組みへと発展させることが理想的です。
特に近年は、ESG投資の拡大やSDGsへの関心の高まりにより、企業の環境への取り組みが注目されています。適切な廃棄物管理と資源循環の推進は、環境への配慮を示す重要な指標の一つとなっています。
法令の理解と遵守を基本としつつ、社内体制の整備、先進的な技術やシステムの導入、そして継続的な改善を通じて、持続可能な社会の実現に貢献する廃棄物管理を目指しましょう。
私たちプレプロスペクトは、企業の廃棄物管理に関するコンサルティングや、適正処理のためのサポートを提供しています。廃棄物管理でお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。